最終更新日 : 2020/06/05
72の法則(Rule of 72)[TBC]
「72の法則(Rule of 72)」とは,資産を複利で運用した時に元本が2倍になるまでの期間を概算する方法である.
計算方法は簡単で,例えば利回り2%で複利運用したとき,72を2で割った36が,元本が2倍になるまでの期間を与える.つまり,年利2%で一年複利の場合,元本が2倍になるまでの期間は36年と概算できることになる.
この法則がなぜ成り立つのか,どの程度の精度で成り立つのかについて,このページにまとめておく.なお,Wikipediaの日本語のページはあまり詳しくないが,英語のページには豊富な記述がある.
72の法則のイメージ
まずは単利運用の場合を考えてみよう.例えば年利1%で単利運用する場合,元本が2倍(すなわち利益が100%)になるまでの期間は100年間である.一般に,利回りが$x$のときに,元本が2倍になるまでの期間$T$は
\[ T = \frac{1}{x} = \frac{100}{x / \text{%}} \ , \]
と計算できる.ここで,$x$は時間の逆数の次元を持ち,例えば年利2%なら,$x = 2 \, \% / \text{year} = 0.02 / \text{year}$である.
複利運用の場合,単利よりも資産が速く増加するから,元本が2倍になるまでの期間は短くなる.したがって,単利の場合と同じような式
\[ T = \frac{a}{x} = \frac{A}{x / \%} \ , \]
が成り立つとすれば,$A < 100 \, (a < 1)$となるはずである.この$A$を$72$に選ぶと良いというのが,「72の法則」の主張である.
もちろんこの式は厳密に成り立つものではなく,適用可能な$x$の範囲で用いなければならない.
72の法則の導出
72の法則の導出は,簡単な高校数学の知識と,概算に対するおおらかな心を持ち合わせていれば難しくない.
利払いの計算期間を$t$(一年複利なら$t = 1 \, \text{year}$),利回りを$x$とし,期間$T$だけ複利運用し,元本が2倍になったとすると,
\[ 2 = (1 + xt)^{T / t} \ , \]
が成り立つ.$T / t$は自然数と仮定した.一般の場合にはGauss記号を用いて$\lfloor T / t \rfloor$と書けばよい.
$x$(と$t$)が与えられたとき,$T$を計算したい.上の式を$T$について解くと,
\[ \frac{T}{t} = \frac{\ln 2}{\ln(1 + xt)} \ , \]
を得る.これは一般の利回り$x$に対する厳密な結果であり,電卓がある場合にはこの式を使って$T$を計算すればよい.
実際の運用では利回り$x$は小さいことがほとんどである.$x$が小さい場合,すなわち$xt \ll 1$が成り立つ場合,$\ln(1 + xt) \simeq xt$と近似できるから,上式は
\[ \frac{T}{t} \simeq \frac{\ln 2}{xt} \ , \quad \therefore T \simeq \frac{\ln 2}{x} \ , \]
と近似できる.$\ln 2 < 1$であるから,確かに前節で予想した関係式が成り立っていることが分かる.
$\ln 2$の値は$\ln 2 = 0.6931\dots$であるから,上式を数値で評価すれば,
\[ T \simeq \frac{\ln 2}{x} \simeq \frac{0.69}{x} = \frac{69}{x / \%} \ , \]
となる.この式は$x$が小さい(正確に述べると$xt$が小さい)という近似の下で得られた式であり,この近似式を用いる目的は$T$を簡単に評価する(計算する)ことである.この目的の下では,分子の$69$という数値は,$69$とそれほど違わない別の数値に置き換えてもよい.そこで,$69$に近い整数のうち,できるだけ約数の多い数として$72$を選んでおけば,$T$の数値の部分を整数として計算できる場合が多くなり便利である.
\[ T \simeq \frac{72}{x / \%} \ . \]
これが72の法則である.
[TBC]