最終更新日 : 2020/04/26
比の分布関数
確率変数$X$と$Y$の同時確率分布が$p(x, y)$で与えられているとする.このとき,$X$と$Y$の比で定義される新しい確率変数$Z \equiv Y / X$の従う確率分布$f(z)$を求めたい.
ちなみに,比の分布関数についてはWikipediaに英語のページ(Ratio distribution)があるが,日本語のページは無いようである.
比の分布関数の計算方法
はじめに$Z$が$z$以下の値をとる累積分布関数$F(z)$を表すことを考える.$z = y / x < z_{0}$という条件は,
\[ \begin{cases} y < z_{0}x & (x > 0) \\ y > z_{0}x & (x < 0) \end{cases} \ , \]
となるから,$Z < z$となる累積分布関数$F(z)$は,
\[ F(z) = \int_{-\infty}^{0}dx \int_{zx}^{\infty}dy \, p(x, y) + \int_{0}^{\infty}dx \int_{-\infty}^{zx}dy \, p(x, y) \ , \]
と表される.これを$z$で微分すれば$Z$の確率分布$f(z)$が得られる.
\begin{align*} f(z) &= \frac{F(z)}{dz} \\ &= \int_{-\infty}^{0}dx \, \frac{\partial}{\partial z} \int_{zx}^{\infty}dy \, p(x, y) + \int_{0}^{\infty}dx \, \frac{\partial}{\partial z} \int_{-\infty}^{zx}dy \, p(x, y) \\ &= -\int_{-\infty}^{0}dx \, x \, p(x, zx) + \int_{0}^{\infty}dx \, x \, p(x, zx) \\ &= \int_{-\infty}^{\infty}dx \, |x| \, p(x, zx) \ . \end{align*}
比の分布関数の計算例
正規分布の比:Cauchy分布
確率変数$X$と$Y$が平均値が共に$0$,分散がそれぞれ$\sigma_{x}^{2}$と$\sigma_{y}^{2}$である正規分布に独立に従うとき,$X$と$Y$の同時確率分布関数$p(x, y)$は,
\[ p(x, y) = \frac{1}{2\pi\sigma_{x}\sigma_{y}} \exp \left( -\frac{1}{2} \left[ \frac{x^{2}}{\sigma_{x}^{2}} + \frac{y^{2}}{\sigma_{y}^{2}} \right] \right) \ , \]
となる.したがって,$X$と$Y$の比$Z = Y / X$の従う分布は,
\begin{align*} f(z) &= \int_{-\infty}^{\infty}dx \, |x| \, p(x, zx) \\ &= \frac{1}{2\pi\sigma_{x}\sigma_{y}} \int_{-\infty}^{\infty}dx \, |x| \exp \left( -\frac{1}{2} \left[ \frac{x^{2}}{\sigma_{x}^{2}} + \frac{(zx)^{2}}{\sigma_{y}^{2}} \right] \right) \ , \\ &= \frac{1}{\pi\sigma_{x}\sigma_{y}} \int_{0}^{\infty}dx \, x \exp \left( -\frac{1}{2} \frac{\sigma_{x}^{2}z^{2} + \sigma_{y}^{2}}{\sigma_{x}^{2}\sigma_{y}^{2}} x^{2} \right) \ , \\ &= \frac{1}{\pi}\frac{\sigma_{y} / \sigma_{x}}{z^{2} + (\sigma_{y} / \sigma_{x})^{2}} \ , \end{align*}
と,Cauchy分布になる.
対数正規分布の比
確率変数$X$と$Y$がそれぞれ独立にパラメータ$(\mu_{x}, \sigma_{x}^{2})$と$(\mu_{y}, \sigma_{y}^{2})$の対数正規分布に従うとき,その比$Z = Y / X$の従う分布は上と同様にして積分の計算をして求めてもよいが,簡単な議論から$Z$も対数正規分布に従うことがわかる.
$X$と$Y$は共に正の値をとるから,$Z = Y / X$の対数をとると
\[ \ln Z = \ln Y – \ln X \ , \]
となる.$X$と$Y$は対数正規分布に従うので,$\ln X$と$\ln Y$は正規分布に従う.正規分布に従う確率変数の和(差)は再び正規分布に従う(正規分布の再生性 [Ref.])ので,$\ln Z = \ln Y – \ln X$は正規分布に従い,$Z$は対数正規分布に従うことがわかる.分布のパラメータは$(\mu_{y} – \mu_{x}, \sigma_{x}^{2} + \sigma_{y}^{2})$である.