シゲル博士のFX研究室

最終更新日 : 2020/02/11

為替単純RWモデルに対する単純売買手法 : 中央値

Models & Methods

合計収益$P_{N} + Q_{N}$の中央値$(P_{N} + Q_{N})_{1 / 2}$

合計収益$P_{N} + Q_{N}$の確率分布は,最大値が$(N – 3) / 2$($N$が奇数)または$N / 2$($N$が偶数),最小値が$-N(N + 1) / 2$の非常に歪んだ分布をしているから,期待値だけでは分布の特徴を捉えることができない.そこで,合計収益$P_{N} + Q_{N}$の中央値$(P_{N} + Q_{N})_{1 / 2}$を計算してみる.

$N$ステップで$2^{N}$個ある経路の全てに対する$P_{N} + Q_{N}$を昇順または降順に並べ,$2^{N} / 2 \, (= 2^{N – 1})$番目と$2^{N – 1} + 1$番目の値の平均値が,$P_{N} + Q_{N}$の中央値である.

$P_{N} + Q_{N}$は$u$と$d \, (N – u)$の入れ替えに対して対称で,$0 \le u < N / 2$の範囲で$u$について$P_{N} + Q_{N}$は単調増加するから,中央値を与える$u = u_{1 / 2}$は,

\[ 2 \sum_{u = 0}^{u_{1 / 2}} {_{N}}C_{u} < 2^{N – 1} < 2 \sum_{u = 0}^{u_{1 / 2} + 1} {_{N}}C_{u} \ , \]

を満たさなくてはならない.もちろん$u = N – u_{1 / 2}$も同じ$P_{N} + Q_{N}$を与えるが,ここでは$0 \le u_{1 / 2} < N / 2$の範囲で$u_{1 / 2}$を定義することにする.

ここで,ある$\tilde{u}$までの和$\displaystyle{2\sum_{u = 0}^{\tilde{u}} {_{N}}C_{u}}$がちょうど$2^{N – 1}$となる場合には,中央値は$u = \tilde{u}$と$u = \tilde{u} + 1$での$P_{N} + Q_{N}$の値の平均値としなければならないが,そのような状況はほとんどない.例外は$N = 1$と$N = 2$のときで,

\begin{align*} (P_{1} + Q_{1})_{1 / 2} &= -1 \ , \\ (P_{2} + Q_{2})_{1 / 2} &= 1 \ , \end{align*}

である.興味があるのは大きな$N$で,その場合には,ちょうど$\displaystyle{2\sum_{u = 0}^{\tilde{u}} {_{N}}C_{u} = 2^{N – 1}}$を満たすような$\tilde{u}$が存在する可能性は考えなくてよいだろう.(右辺の素因数が2のみであることに着目すれば,$N \ge 3$のときにこのような$\tilde{u}$が存在しないことは証明できそうである)

$u_{1 / 2}$を与える式の両辺を$2^{N}$で割り,確率に対する式

\[ 2 \sum_{u = 0}^{u_{1 / 2}} p(N; u) < \frac{1}{2} < 2 \sum_{u = 0}^{u_{1 / 2} + 1} p(N; u) \ , \]

にすることもできる.

$u_{1 / 2}$を求める計算を解析的に実行するのは難しそうである.そこで,まずはプログラムを組んで$u_{1 / 2}$を求め,$(P_{N} + Q_{N})_{1 / 2}$の振舞いを見てみることにしよう.(あとで,$N$が大きい場合に中心極限定理を適用することで,解析的に$u_{1 / 2}$や$(P_{N} + Q_{N})_{1 / 2}$の近似値を求めてみるつもりである)

合計収益$P_{N} + Q_{N}$の中央値$(P_{N} + Q_{N})_{1 / 2}$は,数値計算によると,

\[ (P_{N} + Q_{N})_{1 / 2} \sim \frac{N}{4} \ , \]

のように振舞う.

合計収益の期待値が負となったのとは対照的に,中央値は正となる.

TBC(解析計算,数値計算)

中心極限定理を用いた近似値

$N$が十分に大きいとき,中心極限定理により,$p(N; u)$は平均$\mu = N / 2$,分散$\sigma^{2} = N / 4$の正規分布で近似できる.

\[ p(N; u) \simeq \frac{1}{\sqrt{2\pi N / 4}} \exp \left( -\frac{(u – N / 2)^{2}}{2N / 4} \right) \ . \]

このとき,

\[ \frac{1}{\sqrt{2\pi}} \int_{-x_{1 / 2}}^{x_{1 / 2}}dx \, e^{-x^{2} / 2} = \frac{1}{2} \ , \]

を満たす$x_{1 / 2} \, (= 0.67448\dots)$を用いて,$u_{1 / 2}$は,

\[ u_{1 / 2} = \frac{N}{2} – x_{1 / 2}\sqrt{\frac{N}{4}} = \frac{N}{2} – \frac{x_{1 / 2}}{2}\sqrt{N} \ , \]

と書くことができる.このとき,

\[ d_{1 / 2} \equiv N – u_{1 / 2} = \frac{N}{2} + \frac{x_{1 / 2}}{2}\sqrt{N} \ , \]

であるから,$u = u_{1 / 2}$における相対為替レート$r_{1 / 2}$は,

\[ r_{1 / 2} \equiv u_{1 / 2} – d_{1 / 2} = -x_{1 / 2}\sqrt{N} \ , \]

と書ける.したがって,$P_{N} + Q_{N}$の中央値は,

\begin{align*} (P_{N} + Q_{N})_{1 / 2} &= \text{min}(u_{1 / 2}, d_{1 / 2}) – \frac{1}{2}|r_{1 / 2}|(|r_{1 / 2}| + 1) \\ &= \frac{1}{2}(1 – x_{1 / 2}^{2})N – x_{1 / 2}\sqrt{N} \ , \end{align*}

と表すことができる.

また,単位ステップ(単位時間)あたりの$(P_{N} + Q_{N})_{1 / 2}$は,

\[ \frac{(P_{N} + Q_{N})_{1 / 2}}{N} = \frac{1}{2}(1 – x_{1 / 2}^{2}) – \frac{x_{1 / 2}}{\sqrt{N}} \to \frac{1}{2}(1 – x_{1 / 2}^{2}) = 0.2725\dots \ , \]

と評価できる.

これを数値計算の結果と比べてみると,(TBC)

合計収益$P_{N} + Q_{N}$が正となる確率

合計収益$P_{N} + Q_{N}$の中央値が正となることがわかった.このことは,合計収益が正となる確率が50%以上であることを示している.ここでは,合計収益$P_{N} + Q_{N}$が正となる確率を求めてみよう.この確率が高ければ,それだけこの手法が有用であることを示す.

数値計算によると,$N$が十分に大きいとき,合計収益$P_{N} + Q_{N}$が正となる確率は$2 / 3 \simeq 0.67$に近づくように見える.

TBC(解析計算)

FXで月平均5万円・年利20%の利益を継続中(元本300万円)。感情を排除し、為替データの統計分析のみに基づき淡々とトレードするスタイル。FX歴6年の理学博士(専門:理論物理学)。「FXを科学する」